高い時計には付いてる? 美しいテン輪を作る「チラネジ」って?

みなさんこんにちは。アストです。

今回は、高い時計には付いてる?美しいテン輪を作る「チラネジ」

のお話です。

 

「チラネジ」というのは、テン輪につけられているネジ状のウエイトのことです。

テン輪の重量調整。

また、ネジを出し入れすることでテン輪の慣性モーメント(回転しやすさ)を増減させ、テンプの精度を調整することが出来ます。

と、言われていますが…

実は、現代における「チラネジ」のほとんどは、ただの「飾り」なんです。

 

というのも、この「チラネジ」、温度補正テンプ(バイメタル切りテンプ)の精度調整のために存在するもので

製造段階でバランス調整され、緩急針によって精度を調整する現在主流のスムーステンプには必要ないものなんです。

 

温度補正テンプ(バイメタル切りテンプ)というのは、今は昔、ヒゲゼンマイが鋼製だった頃存在したもので、その名の通り、温度変化による精度の狂いを補正するテンプのことです。

テン輪が色の違う二種類の金属によって作られていて、途中で二箇所切り込みがあります。

現代のテンプでは見られない形であることがわかると思います。

 

当時の鋼製ヒゲゼンマイは熱膨張率が高く、温度変化によって伸び縮みしてしまい、時計の精度を狂わせていました。

そこで当時の技術者たちは、「テン輪側にも温度によって状態を変化させる仕組みをわざと作り、ヒゲゼンマイによる精度の狂いを相殺しよう。」と考えました。

結果、熱膨張率の違う二種類の金属を貼り合わせ、温度変化に応じてテンプの半径が大きくなったり小さくなったりする仕組みを持つ、温度補正テンプ(バイメタル切りテンプ)が開発されました。

 

半径の大きさが変化することで、テン輪の慣性モーメント(回転しやすさ)も変化します。

ヒゲゼンマイが伸びて力が弱くなってしまう高温では、半径を小さくすることで慣性モーメントを減らし(回転しやすくする)

逆に、ヒゲゼンマイが縮んで力が強くなってしまう低温では、半径を大きくして慣性モーメントを増やします(回転しにくくする)

結果、ヒゲゼンマイの変化とテン輪の変化によって精度の狂いが相殺され、時計は本来の精度を保つことができます。

しかし、当時の加工精度では温度変化によるテン輪の曲がり方まで完全に制御することは難しく、そこで「チラネジ」による追加の調整が行われます。

ネジを出し入れして慣性モーメント(回転しやすさ)を調整する。

取り付け位置を変えてテン輪の曲がり具合を調整する。

これによって、やっと時計はその精度を維持することが可能になりました。

 

「チラネジ」は、このように温度変化や加工精度によって時計の精度が左右されてしまっていた時代に、ネジを出し入れしたり、取り付け位置を工夫したりして、時計の精度を維持するために存在していたのです。

時代が進み材料科学が進歩するに連れて、熱膨張率の極めて小さい新たな素材が開発され、温度補正テンプはその必要性を失っていきます。

また、部品の加工精度もどんどん進歩してゆき、テン輪の精度を製造段階から維持できるようになると、空気抵抗等の観点から「チラネジ」もその姿を消して行きました。

結果、現代のスムーステンプを緩急針によって調整する仕組みが一般的になりました。

 

「チラネジ」の姿をほとんど見なくなった現在でも、高級時計メーカーのムーブメントでは「チラネジ」付きテンプを採用している場合があります。

しかし、緩急針によって精度調整が出来る上、元々のテン輪の加工精度も非常に高い現状では、「チラネジ」の出し入れによってテンプの精度調整が行われることはほとんどありません。

よって、「チラネジ」は、ムーブメント装飾のための飾りとして扱われるようになったのです。

 

いかがでしたでしょうか。

「チラネジ」の技術的有用性はないかもしれませんが、チラネジ付きテンプはなんとも言えぬ美しさがあり、私はとても好きです。

次買う時計は、是非スケルトンバックからチラネジ付きテンプが見える時計にしたいと考えています。

 

以上、アストでした。

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高い時計には付いてる? 美しいテン輪を作る「チラネジ」って?” に対して1件のコメントがあります。

  1. なつま より:

    とても分かり易かったです。
    勉強になりました。
    チラネジ付テンプはなんだか豪華な感じがします。

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